スナック信子
名古屋の場末に佇む一軒のスナック「信子」。
そこには疲れた身体の男たちが、
心のオアシスを求め、日々訪れるのだという。
おやおや、今夜もお客さんがやってきたようだ。
大人の夜の物語、とくとご覧あれ――。
~第四夜・山井、緊張する~
「ち、ちわーっす」
「あら、山井君。来る頃だと思ってたわよ」
「ほ、本当っすか?!」
「まぁ女の勘ってやつよ」
「じ、実は明日からの巨人戦、初戦の先発を任されちゃったんですけど・・・」
「いいじゃない、初勝利のチャンスじゃない」
「い、いえ、でもボクなんかに巨人打線を抑えられるか不安で仕方なくて・・・」
「まぁ無理でしょうね」
「そ、そんな~・・・(泣)」
「ぶっちゃけ、誰もあんたなんかに期待してないわよ。」
「でも期待されてないって事は、かえってダメ元で臨めるって事でもあるのよ」
「ダメ元で臨める・・・?」
「えぇ。あんたの短所は、丁寧に投げようとし過ぎて自滅するとこでしょ?」
「・・・」
「でも投手なんて、本当は丁寧になんか投げなくても良いのよ」
「どういう事ですか?」
「投手の仕事は、ミットめがけて思いっきり腕を振ることだけ」
「それで打たれりゃ捕手のせいなんだから、気にしなくても良いの」
「な、なるほど!」
「昔、野口って子が勝つたびに『中村さんのおかげです』って言ってたのよ」
「あぁ、野口茂樹さんですね」
「でもそれは、言い換えれば打たれた時は『中村さんのせい』って事でしょ」
「た、確かに・・・」
「投手は、そのくらいの気持ちでいる方がちょうど良いのよ」
「な、なんかよく分かりませんが自信わいてきました!」
「ならよかった。とにかく明日、頑張ってね」
「はい!」
「ところで最初っから思ってたんだけど・・・、」
「あんた、山井じゃなくてヤクルトの田中浩康でしょ」
「やべっ!やっぱ気付かれてましたか!」
―その頃ホンモノの山井は・・・。
▲巨人戦を前に、半べそかきながら足を震わせていた。
とにもかくにも、首位攻防6連戦いよいよ開始。
初戦の山井が、めちゃくちゃ心配だ。
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