止めど流る清か水を"止める"ことなどできるはずないのが物理の常識である。
どんな鋭利な刃物を持ってしても、水道水や川の流れを止めることはできない。
野球の「流れ」とやらも同じく、止めるどころか抗うことすらも難しい無形の強敵だ。
特に統一球が使われる今季は流れを呼び込むことすら難しく、何かの弾みで貴重な1点を取った方が勝つ、
そんなケースがセパ問わず例年に比べ異様なほど多くみられる。
今夜だって、9回まではそうだった。まさに今季のプロ野球を象徴するかのような静かすぎる戦い―。
どこかに勝ち運が流れていたとすれば、それは帆足が掬って独り占めしていたのかもしれない。
普通であれば、この手のパターンは帆足の投打に渡る一人舞台で完結するのが常なのだが、
気まぐれな野球の流れは気付けば帆足の手中から漏れ出し、23歳の若き大砲の元に集まっていたようだ。
この試合、正真正銘最後の打者が放った打球はナゴヤドームの最深部へと楽々に飛んで行った。
打った瞬間の感触で勝利を確信した若き大砲は、ポーズを決めてゆっくりとベースを回る。
3時間33分のフラストレーションから一気に解放された3万の観衆がオールスタンディングで沸き上がる。
劇的なサヨナラ勝利。振りかえれば9回裏、土壇場で追いついたのもこの若者のタイムリーだった。
西武が、と言うより帆足が持っていた流れは、いつの間に彼の手中に移動していたのだろうか。
いや、やはり今日はどう考えても帆足がヒーローで終わるのが自然な流れのはずなのだ。
今まで何千試合とみてきたが、往々にしてこういう試合はそのまま流れが変わらず終わるものだ。
そんな自然な流れを奪おうとか止めようとか考えるほど切れ者でもなく、ましてや流れに左右されるほど繊細でもない。
ただ単純に「ホームランを狙って」打ったら、この結果。
そうだ、流れなんてもんは引き寄せられないならもっとデカい流れを一発で作ってしまえばいいのだ。
難しく考えてドツボに嵌る打者が多い中で、いい意味で単純な平田の思考が新たな流れを生んでの勝利だった。
スポンサーサイト